恋しても、愛しても、夢は見ないから
君を想う時間に
白い結晶
……?
………あっ…!
2/8 AM8:00…
少しだけ寝坊して
素早くシャワーを浴びて
スーツに着替えいつも通りに家を出る。
妻が子供の幼稚園の支度をしてるのを見て
いつもと変わらない朝だと
妙な確信をしていた。
妻に声をかけ、
玄関から出ようとすると、
妻から『いってらっしゃい』とキスをされる。
新婚当初から変わらない
5年も続いてる習慣だった。
『ああ、いってきます』
玄関を出ると、
外は別世界のように寒かった。
駅までバスで10分の道のり。
車内を見渡しても
彼女の姿はなかった。
バスを降りて、駅に向かう途中、
自分の上着に白い小さな固りが
パラパラとあたるのに気づいた。
……雪か?
それは、雪と言えるほどの
モノではなく、
粉砂糖?…いや、
それよりも少し固くて
金平糖を細かく砕いたような
雪だった。
上着の上で溶けずにいるそれを
一粒だけ手にとってみた。
人指し指の平にのせた
その小さな白い固りは
自分の冷えきった指の
微かな体温に反応して溶けて消えてしまった。
……ああ、
彼女にみせたいな。
ふと、そう思っていた。
こうしてどこかでふとした瞬間
君を想う存在がいることを…
君に感じて欲しいと思ったんだ。
一人ぼっちだと泣いてる彼女に。
いや…、
そんなのは……。
父親にも、ましてや恋人にもなれない自分が、こんなことを思うことも無責任なのかもしれない…。
コートの上で溶けず残っている雪を
振り払わずに駅の中の生暖かい空気に包まれた。