恋しても、愛しても、夢は見ないから

優しい時間

ふらつく足で家に帰った。


歩くたびにズキズキと痛む。


身体の中にまだ何かが入ってる
そんな感覚がしていた。




…幸先輩に指輪を返さなきゃ。




またこの指輪が
聖の目に触れるコトがあったら…


考えただけでゾッとする。



今度は見放されてしまうかも…




両親が留守がちで、
昔からいつも一人ぼっちだった。

風邪をひいた時も、
一人が寂しくて泣いた時も、

いつだって側にいてくれたのは聖だった。




いつも孤独な暗闇から
救い出してくれたのは聖だった。





親にとって子が”特別”なように、
聖の”特別”でいたかった。






それは、
”恋人”なんて不確かなものより、
ずっとずっと私を満たしてくれる。





聖を失うことなんて

怖くて考えたくもなかった。






幸先輩に電話をかけなきゃ…。



…トゥルルッ、


1コールもしないうちに
電話は繋がった。



今から行くという幸先輩を
近くの公園で待つことにした。



待ってる間に、身体はズキズキと
痛みを増していったけど、

不安に怯えるよりはマシだと思えた。






聖は私が一瞬気を失った後に
やっと玩具を抜き出してくれた。


『指輪のことは聞いてないから、
ここに指輪は存在しなかったってことでいいよね?』



そう言って私の制服の
ポケットに指輪を戻した。



それから、優しく包むように
私の涙を拭い撫でる。


愛しそうに見つめる眼からは
さっきの鋭い視線は消えていた。



『イイコだね。もう嘘はついちゃダメだよ?』




コクリと頷く私を見て、

悪戯を怒られて泣いてる子供を
慰めるようにゆっくり頭をなでた。




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