恋しても、愛しても、夢は見ないから
しばらくしてやってきた幸先輩は、
少し息をきらして私を見つけると、
ネクタイを緩めてから優しく笑った。



『はぁ〜、

ごめん…待った?』



急いできたのがわかる。

呼吸を整えながら私の隣に腰かける。


周りをゆっくり見回すと
小声で”恋人だらけだね”と
少し困ったように笑って言った。



『幸先輩、…コレ返します』



指輪を幸先輩の前に差し出す。



ひんやりとしたした風が
春なのにまだ冬の空気を残していた。


さっさと渡して
お風呂に入って身体を温めたかった。



聖の痕が残る身体を
抱きしめて眠りたかった。



幸先輩はしばらく差出された指輪を見つめてて、
指輪を引取る気配はなかった。



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