恋しても、愛しても、夢は見ないから
林田だ…。
アイツが飲みすぎて気持ち悪くなって公園のトイレに駆け込んだときだ…。
林田は同じ大学でよく一緒にバカなことばかりしていた。
その日は久しぶりに大学の仲間と近況報告の飲み会だった。
そこでアイツが飲みすぎたんだ。
公園のわきにタクシーを待たせて
林田が戻るのをタバコを吸いながら待っていた。
春が近いのに、異様な寒さは
冬のようだった。
タバコをもつ手がみるみるうちに冷えて感覚が遠退く。
…ったく、
いい歳なんだから加減をわきまえろよ…。
そう思っていると、ふいに
心地いい水音が耳に触った。
……あぁ、噴水か?
薄暗い公園内は人が辛うじて歩けるほどの明かりしかなく、
よく見ると道に沿って並べられた等間隔のベンチにはチラホラと甘いムードのカップルが二人きりの世界に没頭していた。
その奥に高らかに噴き上げ水しぶきをあげている噴水が公園の茂みを通してかいまみえた。
月の光に照らされた噴水は
なんだか怖いくらい綺麗なものにみえた。
しばらく何も考えずに
ただひたすらに、タバコの煙越しにその光景を見ていた。
…こんなに穏やかな時間は
久しぶりな気がした。
こんなことを思うなんて、
少し疲れているんだろうか。
それとも一種の酔っ払いの開放感に浸っているのだろうか…。
子供が生まれてからはプライベートも仕事も目まぐるしく存在し、
強い流れで在るべき場所に押しやられてここまできてしまった気がする。
だけれど、それが不満なわけじゃない。
家族は大事だし、妻も子供も愛しい。
仕事だってこの歳では恵まれたポストにつけている。
不満に思うことなんてないはずなのに…
いつもどこか…なにか……
…………いや、
やっぱり疲れているだけだ。
タバコはいつの間にかあまり吸わないうちに短くなってしまっていた。