恋しても、愛しても、夢は見ないから
林田をタクシーに押し込め
自分の家へは歩いて帰ることにした。


公園の入り口でタクシーがみえなくなるまでそこにいたけれど
そこに留まる足を無理矢理家に向かわせた。



…引き返して、あの続きを見ようとでも考えているのか俺は。




家に着くまでの間、あの光景が
頭から消えることはなかった。



家に帰り、鏡に顔を映すと、
いつも通りの普通の顔だった。



あの時の俺は
どんな顔をしていたんだ…?



まるで映画の1シーンのような
現実離れした異空間。



ただただ幻想的で
綺麗だった。



『……優ちゃん?』



少しビクッとして振り返ると
眠そうな眼でにっこりと笑う
妻の姿があった。



『…あぁ、ごめん。
起こしちゃった?』



『ううん。
おかえりなさい。』



出しっぱなしの水を止めて
妻の近くに寄り添う。


人のラブシーンにあてられるほど若くはないのに…。


今は目の前の妻を無償に
優しく抱き締めたかった。


『…ただいま』




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