恋しても、愛しても、夢は見ないから
『好きだよ』
幸先輩の指が
優しく私の髪に触れる。
優しく触れられているはずなのに、触れられる数だけ全身を柔らかい針で刺されるような感覚がする。
『…言ってる内に本当になるかもよ?
ほら。』
”言って?”と催促するように
見つめられる。
ちっとも笑わない先輩は
周りの人が知っているような
”甘くて優しい王子様”
ではなかった。
目の前にいる王子様は
深い色の瞳の中に
凍るような闇をもっている
そんな感じがしていた。