恋しても、愛しても、夢は見ないから

『…唯ちゃん?』


……??


あ!


振り返るとそこには
優一さんがいた。


少し心配そうにしてるのに
隠すように笑顔を作っていた。


幸先輩は優一さんを不思議そうに見つめて様子を見ている。




『……幸先輩。
これから用事があるので…もう…。』




幸先輩はしばらく黙って
ふぅ…と一息ためいきをつくと


『今日言ったこと忘れないで』


そう言って、私を掴んでいた手を静かに離した。




優一さんは遠ざかる先輩を気にしながら、




『………ごめん。
なんだか困っているように見えたから。』




そうだ。



この人はいつもそう。



困っている人がいたら
手をさしのべる。



それは、誰にでも。



その優しさが好きで、



その優しさが寂しかった。






< 70 / 119 >

この作品をシェア

pagetop