恋しても、愛しても、夢は見ないから

毎週水曜日はゼミの研究会があるから、聖は帰りがいつも遅かった。


だから油断していた。




優一さんが公園の入り口からやってきたのがみえた。



私は座ったまま、
優一さんを待ってる。




『…やぁ』



『待ちくたびれた』



ちょっと拗ねるように言う。



『…!ごめん!』


『…すぐ謝る…』


『………ごめ…あ!』


『あはは!そーゆーとこ好きですよ?』




優一さんと会って話すことは
他愛ない会話ばかりだったけど、
いつも話しは尽きることがなかった。



他の人になら面倒だと思うのに
彼に話すのは不思議と心地よくて嫌じゃなかった。



”聞いてほしい”
”知ってほしい”

初めての感情だった。







『………楽しそうだね、唯?』







優一さんと話してる途中で
優一さんの斜め後ろから声がした。


あまりに夢中になって話してたから、気づくのが遅かった。


――聖。


涼しげな笑顔で
優一さんに会釈する。


でもその笑顔に、震えるほど
心が凍りついていくのを感じた。



『…あ、こんばんわ』



優一さんも会釈で返すけれど
どこかぎこちなく感じた。




『…唯、まだ帰らないの?』



足が震える。

表情から笑顔が消えるのが
自分でわかった。


心臓がバクバクと音をたてて
なかなか言葉がでてこなかった。




『………もう…帰るよ』






『…そう?じゃあおいで?』






優一さんが心配そうに見ている。




『…じゃあ、すみません。
唯が遅くまでお引き留めして。』



優一さんに再度会釈をして
聖は家のほうへ歩いていく。





『…今日は帰ります。』



聖の後を追いかけようと
優一さんの横をすり抜けようとした時、



『……彼はお兄さんなの?』



『…いえ、…幼馴染み…です。』




それ以上続ける言葉が浮かばなくて、そのまま逃げるように聖を追いかけた。




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