この恋が叶わなくても
ブレザーのポケットから携帯を取りだし、サイドボタンを押して時刻を確認した。
授業が始まるまでには、まだ少し時間があった。
携帯をポケットにしまってから、教壇の周りで楽しそうに話している数人の男子達に目を向けた。
そして、そのグループの中で“昨日のこと”なんて気にもしていないかのように笑っている長身ですらりとしている男子を見つめた。
もちろん、本人にはバレないように。
「あの、さ、大翔っ……」
グループの中の男子が腹を抱えながら、あの人の名前を言った。
それを聞いた瞬間、あたしの心臓がドクンと高鳴った。
もう好きじゃない、大嫌いって思っているのに。体は正直だ。
ああ、いつになればその名前に反応しなくて済むようになるのだろう。
やっぱり、過去の恋愛を忘れるには新しい恋愛が必要なのかな?
……ううん。今のあたしじゃ、新しい恋愛なんてきっと出来ない。
このこころの傷が癒えるまで、男の人を信用できそうにない。
「大翔、今日暇?」
グループのひとりの男子はやっと笑いが落ち着いたのか、今度は落ち着きながら言っていた。
あたしの視線は、まだ大翔に向いたままだった。目を離すことができなかった。
「おう」
笑顔で返事をした大翔を見て、胸がチクリと傷んだ。