この恋が叶わなくても


「じゃ、今日遊ばね?あ、大翔……………」

丁度チャイムが鳴った。
チャイムに気を取られて、後のほうをよく聞いていなかった。

あたしは大翔を見つめるのをやめて、机の中から次の授業で使う教科書やら参考書を取り出そうとした。



「俺、別れたからその約束は無かったことになった」

あたしの手が止まった。
大翔の声。いちばん後ろの席のあたしにまで届く声量でもないのに、あたしの耳まで届いた。


“別れたからその約束は無かったことになった”

きっと、あたしとのこと。
その約束…って?


…あ。今日はふたりが付き合って1年目の記念日だったんだ。

“1年目の記念日は1日中一緒にいようね”なんて約束をしたような気がする。



大翔、覚えていてくれたんだ…

昨日が昨日じゃなくて明日だったら、今日は大翔と1日中ずっと一緒にいられたんだ。

急に胸を締め付けられるような感覚がした。



止まった手はまだ動かせなかった。俯きながら懸命にその胸の痛みに耐えた。これもきっと時間の問題だから、と自分に言い聞かせた。


辛いのも、痛いのも、悲しいのも、今だけ。

こころの傷が痛むのも、今だけ。

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