この恋が叶わなくても
授業中は、ずっと考え事をしていた。大翔のこと。
おかげで授業はあっという間に終わってしまった。
授業が終わった後、咲希があたしのもとに来たと思ったら何も言わずにあたしの手を引いて、どこかへ向かった。
咲希に何か言わなくちゃ、と思って口を開こうとしたけれど言葉が思い付かなくて、何も言わずに咲希に従った。
向かった先は女子トイレだった。
この学校の校舎は最近建て替えたから比較的新しかった。だから、トイレも綺麗でその上無臭だったから特に気にならなかった。
ようやくあたしの手を解放した咲希は、少し躊躇ってから口を開いた。
「大翔と何かあったんでしょ?」
“大翔”というワードにまた、心臓が高鳴った。それと同時に胸がチクリと傷んだ気もした。
あたしは頷いた。
『別れた、大翔と』
隠しても仕方ない、と思い結局打ち明けることにした。
視線を上げてちらり、と咲希を見てみると咲希は呆然としていた。
しばらく、ふたりの間に沈黙が続いた。
「…いつ?」
あたしと大翔が別れたという事実が信じられないのか、咲希の口調が弱々しかった。
『昨日、だよ』
あたしだって、少しはその現実を受け入れられたけれど、まだ信じきれていない。
“大翔”というワードに胸が高鳴るのはまだ信じきれていない証拠で、胸がチクリと痛むのは現実を受け入れた証拠。