風が舞
『わたしも最初のころは怪我をたくさんしたのだぞ?』


凌は、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに言い返し始めた。


『…嘘にございます。凌は騙されませぬ。』


兄上はいつもキレイに馬に乗っておる。


『本当だ。覚えておらぬか。そなたいうたではないか。兄上様、もうお馬に乗らないでくだされ。と』


『…ですが。』


そんなことを言っていたような気もしてきた…


『…凌。確かにこの国は小さい。しかし、そなたは民から見れば立派な姫ぞ。もし、そなたに何かあらば、罰をうけるのもこの者たち。…自覚を持て。』


姫。自覚。最近になりみながわたしにいい始めた言葉だ。


…兄上に言われて少し頭が冷えてきた。


そして、不安そうな次女たちを見渡す…。


『…無理を言うて、すまなかった。』


そういうと次女たちは慌てたように滅相もございませんと言って下がっていった。


わたしはこのものたちに助けられておったのに一人で生きているようなつもりでおった。


『…よう、言うた。それでこそ凌。』


兄は妹を見ながら静かに微笑んだ。


…?…兄上の隣にいる方。見たことがない。


『…兄上様。そちらは?』


顔はよう見えないが…キレイそうなお方…


『凌?…そうか明(あき)と会うは初めてか。』


『…キレイ。』


その方がさっと顔をあげ、目があった瞬間につい言ってしまった。


『…。明すまぬ。』


『…大丈夫だ。…凌。わたしは、男だ。分かっておるか?』


…男。…男!?


『…も、申し訳ございませぬ。』


…あまりにもキレイな顔だったので、女の方かと…


…凌?わたしの名の呼び捨てを許されておるのは、親戚のみのはず…


『そして、わたしの本当の名は玄武永明(げんぶ ひさあき)。』


あまり愛想の無い。兄上とは正反対のお方。


…玄武永明?


『…永明様!?』


わたしは、永明様をおなごと間違えたのか。なんという無礼を…


『…凌。声が大きい。まことそなたがこの国の姫であろうとは。小さいころはもうちいと可愛らしかったぞ。』


この言葉を聞いた瞬間に胸のうちからくすぶる感情が沸いてくるのが分かった。


『…永明様。』


『なんだ?』


『いくらなんでも酷すぎでございます!!』


『あっ、凌!』


何が、政様…。


あのような無礼なお方が…。


心配そうな兄を横目に凌は走って行った。
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