車にはねられた猫
あめ
次の日は雨だった。2月の雨なんて、めずらしい。
太平洋側気候のこの土地では、2月は冬晴れか雪しか無いのが普通だ。
その日から、空気の冷えた緊張が和らいできた。二十四季節は、あながち間違っていない。猫の死んだ日は立春だった。
雨だから、現場を見には、でかけなかった。
さらに翌日は、よく晴れた日だった。ついつい、あの場所をもう一度見に行った。
予想通り、雨が血液を洗い流していた。道路にだけ、黒っぽく痕が残っていたが、これが風化するのも、時間の問題だろう。
脇をビュンビュン車が走り去る。この人たちは、ここにいた猫のことなんか、知るはずも無い。
悲しい、寒い夜の、猫の最期。
これで、最後にしよう。猫を目的にここに来るのは、最後にしよう。
ここに亡骸がある訳でもない。何の跡も無いのに、来ても意味がない。
帰り道、顔をあげて遠くを見ると、はるか北の山々がくっきりと青空の中に縁を描いていた。
頂には、白い雪。
真冬には雪雲を被ってどんよりしている山が、こんなにもはっきりしているという事は、もう春になるんだな。
もう少し生きていれば、春だったんだね。
冷たい西風は体を冷やしたけれど、それに立ち向かうのは、あまり不快ではなかった。
–end-