車にはねられた猫
道路と歩道に染みた血痕だけがそこにあった。
誰かが、埋めてくれたのかな。
歩道側の血が、まだ生々しく光っていた。
もしかして、間に合ったのか、誰かが救ってくれたのか。
淡い期待はすぐに消える。
よく見たら道路の方も一部分が太陽に反射していた。
血というのは、そう簡単に乾くものではないらしい。
道路の血痕の中には、得体の知れぬ黒いものがふたつ、混ざっていた。
歩道にしゃがんで、そこに猫が横たわっていた図を脳裏に描く。
先の震災で、東北には、ああいった猫が、犬が、そして人が、たくさん転がっていたのだろう。
ごろん。ごろん。
転がっていた。なんて失礼な言い方だろう。
でも、そう言いたくなるほどに、新聞で見た死者数は半端ない数だった。
初めて、震災とはなんであるか、実感を持って知った気がした。