黒い炎
すれ違いの日々
《side 鈴》
「お…お邪魔します…」
「何緊張してんのよ…優弥ならまだ帰ってないみたいよ?靴がないし」
「べ、別に緊張なんて私…そんな」
「ふふっ」
意地悪に笑う桜ちゃに「もうっ!」と、怒ってみても"はいはい"と軽く流される。
「早くあがりなよ」
さっさと先を行く桜ちゃんに、がっくりと肩を落とし仕方なく靴を脱いだ。
「お邪魔します」
並べられた柔らかくて真っ白なスリッパを履く。
桜ちゃんが私の為に用意してくれた物。
『鈴専用だよ!』
初めてこの家にお邪魔した日、桜ちゃんは満面の笑みで私に言ってくれた。
『昨日買ってきたんだけど…気に入った?』
気に入ったも何も、私の為に用意してくれた…それだけで十分だった。