黒い炎
桜に聞けば鈴に連絡を取るくらい簡単な事だろう、だけどその簡単な事が俺には出来ずにいた。
もし拒まれたら?
初めて出会った時の怯える鈴が脳裏をかすめ踏み出せない。
今までになく弱気な自分に正直萎えるが、こんな事を思えば思う程会いたい気持ちが膨らみ続ける。
さっきの車だって、鈴の兄の車に似ていただけで実際は違ったかもしれない…なのに俺の足はとまらなかた。
あんなに走ったのはいつ以来だろうか?
「……ふっ…」
額の汗が引き駆け抜ける風が心地よい夕暮れ時。
ぼんやりと考えていた俺の心にポッと現れた黒い炎。
『ーーーもしも心を許す男がいたら?』