黒い炎
溢れ出す感情
玄関の扉の前で、ギュッと鞄を抱きしめ俯く鈴が居た。
「…ぁ…ぁ…わたし…」
今にも消え入りそうな小さな声で、俯いたままの鈴が言葉を発する。
「鈴?」
「ご、ごめっ…なさ…ぁ…わたし…か、帰り…ます…」
小さく頭を下げた鈴は玄関の扉を開け一歩踏み出す。
「…きゃっ」
「待てよ!」
慌てて掴んだ彼女の華奢な腕を引っ張り俺は中へと引き戻した。
そのまま腕を引き、自分の腕の中へと彼女を閉じ込める。
「帰さねぇ…会いたかった…」
「……っ…」
抱きしめた彼女に思わず漏れた心の声…あー俺…どうしちまったんだろう。
服越しに伝わる体温が妙に心地よく感じる。
女を抱き締めて心地よく感じるなんてな…触れられるのも嫌だった…そんな女ってやつを俺は今抱き締めている。
腕の中で小さく震える鈴をどうしようも無く『愛おしい』そう…感じていた。