黒い炎
小さく息を吐き、そっと重ねた俺の手の指先を握ると彼女はゆっくりと口を開いた。
「わたしが…中等部に上がった頃の話し……うちの家ね…庭が自慢なの…日本庭園?…って言うのかな…祖父がねとっても大事にしてて…いつも庭師の人にお願いして手入れしてもらってるの…」
「それで?」
「…そのね…庭師の中にある若い男の人がいたの…」
「若い男…?」
「兄と同じくらいの歳のヒト…だからかな…他の人より近寄りやすくて…自然と話すようになってた…」
その男を思い出しているのか悲しげな鈴…今隣に居るのは俺なのに、頭の中はその男が居るのかと思うと正直むかつく。
「で?」
少し苛つきながら先を言うように促す。
「…あ、うん…ある日…その彼が自分の手入れした木を見て欲しいって…わたし庭木のことなんて何にもわからないし…何も思わずにただついて行ったの…」
ギュッと握られた指先。
「その木を見て…どうかな?って聞かれたけどわたし、何もわからなくて…なんて言っていいか戸惑ったの…そしたら彼…聞かれても困るよなごめんって…わたし悲しげな彼に思わず触れたの…でもなぜだか怖くなって…離れようとしたの」
俯き小さく震えだした鈴。