黒い炎
「………」
「辛いなら言わなくていい…」
黙ってしまった鈴を引き寄せ抱きしめる。
ギュッっと背中に抱きつく鈴が愛おしい。
「…彼…わたしを抱き寄せて…キ…キス…してきて…わたし怖くて…逃げようとした…でも…お、押し倒されて…誘ったんだろって言われて…違うのに…無理やり……でも…途中でお手伝いさんが助けてくれたの…」
強く抱きしめた小さな身体は震えていた。
同時に俺の心も怒りで震えていた。
彼女に触れ、心まで傷つけたその男が憎い…もしも会うことがあるなら…俺はそいつに殴りかかってしまうかもしれないな…。
「で、そいつは?」
ふるふると首を振る鈴。
「た…多分お仕事は辞めてると思う…庭師さんも…見たこともない人達にかわってた…」
「その後会ってねーの?」
「うん…誰もあの事には触れないし…彼がどうなったか聞いてないの…でもね…今になって思うの…無知で無防備なわたしも悪かったんじゃないか…彼1人を悪者にして良かったのか…って…」
「お前は悪くなんてねぇよ」
震える小さな身体をぐっと抱きしめた。
「…わたし…彼の事…好きだったのかもしれない…だからかなそんな事思うの…それに…あの時…彼にキスされた時…嫌じゃなかった…」