竜王様のお気に入り
「分かりました。」


ヤヨイは素直に頷くしかなかった。


何故だか眉目秀麗な竜王様に気に入られ、どうやら特別な待遇も受けている。


その竜王様の口からは、愛しいの言葉まで飛び出した。


まだ、夢を見ているのでは?と思える程の出来事である。


ヤヨイと居る時のハクリュウはとても優しくて、今聞いた話の中のハクリュウと、同一人物とはとても思えない。


ハクリュウの、はにかむように笑う、温和な顔が思い出されて、ヤヨイは少し落ち着けた。


そのおかげで、緊張して固まっていた肩の力も和らいで、そっと部屋の中を見渡してみる。


コハクの部屋は柔らかい空気に包まれて、ヤヨイは居心地がよかった。


イオリの声も、口調は淡々としているが、音は耳に心地よい。


どれほどの時間を、ここで過ごしていたのだろうか。


ヤヨイは時間の感覚に囚われずに、いろいろに考えを馳せていた。


不意に叩かれた扉の音は、そんなヤヨイを現実に連れ戻すものだった。


< 116 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop