竜王様のお気に入り
王宮から出て、イオリはシリュウの暮らす屋敷に赴いている。


正直、気は進まない。


ハクリュウを竜王として繋ぎ留めるための、苦肉の策である。


竜王陛下が望まぬ王妃を迎えるはずはなく、事態はより悪化するであろう。


コウリュウの立場を考えると、イオリは足取りが重くなる。


勝手に裏で手を回すコウリュウに、罰が下らなければいいのだが。


当然、竜王陛下の許可なしに動くのはタブーであった。


しかもそれは、ハクリュウが一番嫌う事でもあるのだ。


次は本当に消されてしまう。


そんな不安が、イオリの脳裏を掠めた。

---。


シリュウの屋敷は王宮からそう遠くない。


ゆっくりと進んだつもりだったが、じきに到着してしまった。


イオリの口から、大きなため息が漏れる。


『何故、よりによってシリュウ様なのだろうか。』


イオリは心の中で呟くと、もう一度ため息を漏らした。

< 171 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop