竜王様のお気に入り
老婆の記憶にしっかりと刻まれた顔が、そこにあった。

言うことを利かなくなった手足を必死に動かして、老婆は声をかけてくれた娘へ近寄る。

曲がった腰を懸命に伸ばし、懐かしい腕を取ろうと震える手を差し出した。

「ヤ…ヤヨイ姉様?」

「本当にキサラギ…?
こんなに年を取ってしまったの?」

別れた時十歳だった幼い妹の面影はなく、ヤヨイの目の前に居るのは、深い皺が刻まれた八十歳になる老婆であった。

黒く艶のあった髪は白く痩せ細り、無邪気な笑顔は品良く年を重ねていた。

キサラギは溢れ出る涙を拭おうともしないで、ただひたすらにヤヨイの名を呼んでいた。


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