竜王様のお気に入り
大切な生け贄
ノックの音に続いて、訪問者の声が流れてくる。


「竜王陛下。
コウリュウ(紅龍)でございます。」


扉を隔てて伺う声は、ハクリュウを竜王にするのに充分なものであった。


「・・・入れ。」


もう一度ヤヨイの布団を深く掛け直し、機敏にベットから降りると、ハクリュウは凛とした声を発した。


「竜王陛下、先程の件でお話が。」


一歩部屋に足を踏み入れて、すぐに甘く香る人間の気配に気づき、コウリュウはベットをチラリと見やった。


先程、広間で遠目に見かけた生け贄の巫女。


生け贄を陛下が自らの部屋に入れるとは、どういう風の吹き回しか。


今までの竜王陛下からは、想像もできない行動であった。


「気にするでない。
我のための生け贄だ。
この部屋に据え置く。」


反論を許さない威圧的な竜王の言葉に、コウリュウは少し怯んでから意を決して申し出る。


「その事でございますが、兄上・・・。」


ためらいを見せて、コウリュウはハクリュウを『兄』と呼んだ。

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