竜王様のお気に入り
サツキはこの20年、巫女となるべく、育てられてきた訳なのだが。


でも、生け贄だなんていわれても、正直ピンとこない。


前回の贄は、南の村のアンジェという15歳の少女だったそうだ。


何十年か経った今も、アンジェは帰って来てはいないのだ。


その代わり今日までの長きに渡り、天候不良なく農作物はよく実り、川が氾濫することも水が不足する事もなかった。


巫女が命と引き換えに、村の安泰を守ってくれる。


竜王様の生け贄となり、その身を捧げたお陰で。


でもそれは、代々行われてきた伝統の行事であり、当然の儀式。


村人達に罪の意識や、悲しむ感情は一切なかった。


むしろそれは、巫女にとっての名誉であり、喜ぶべき神事であるかのようにさえ、思われているのだから。

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