竜王様のお気に入り
「おい。
巫女様の仕度はできたかのう?」


「さぁな・・・。
呑気に家族と最後のお別れでも、してるんじゃないのか?」


巫女の犠牲の上で、自分達の安全が保証されるのだ。


急かす事はあっても、待ってはくれない。


村人とは、なんといいご身分であろうか。


・・・その頃。


本当に巫女の家では、サツキが家族と別れを惜しんでいるところであった。


「父様、母様、ヤヨイ、キサラギ。
元気でね。」


涙を堪えながらサツキは微笑んだ。


「姉様。綺麗よ。」


少しでもサツキを励まそうと、ヤヨイは朗らかに呟いた。


実際、サツキはとても美しく仕上がった。


髪を結い上げ、唇に紅を差し、巫女の白い装束を身につけたサツキに、ため息が漏れるほどだ。


穏やかで儚げな雰囲気も、貢ぎ物に相応しくさえ思えた。

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