アラサーだって夢をみる【12/23番外編追加】
「ただいま」

いつも吠えるはずの声がしない。
家の中が静まり返っていて、嫌な空気が満ちているような気がする。
恐る恐るリビングの扉を開けると部屋の隅でうずくまるぷう太が見えた。
少し離れてモモ。
ナツとレオはソファの下にいて、友樹は黙って座っている。

「どうし、たの…?」

血の気が引くのがわかった。

「ぷうちゃん?」

声をかけるとぷう太は少しだけ顔を上げて私を見た。

「どうしたの? ぷうちゃんどうしたの?」

尻尾を丸めている小さな体に触れるとぶるぶる震えていて。

「ぷう太!?」

友樹がやっと口を開いた。

「あんまりうるさいから」

「なにしたのよ!!!」

我を忘れて叫んでいた。

「お前がちゃんとしつけないからだろ!」

友樹は、あんまりうるさかったからリモコンを投げたら当たったと言う。

大きめのリモコンはカバーが外れて電池が転がっている。
ぞっとした。
壊れるくらいの勢いで投げつけたなんて。

「ほんとにそれだけ!? 叩いたり蹴ったりしてないの!?」

うん、と即答したので、多分そこまではしていないんだろう。

どこに当たったのか確認すると体の下にある前足が赤黒く腫れていた。

「病院いかなきゃ」

折れてるかもしれない。
今日はかかりつけの病院が休みなので救急病院に電話してすぐに行くと伝える。
ぷう太をクレートに寝かせて震える体をブランケットで覆う。
モモが側で心配そうにしているので、大丈夫よと声をかけて立ち上がった。

「ごめん」

泣きそうな声がした。
  
「ごめん、ぷう太ごめん」

謝り続ける友樹の横でナツとレオが不安そうに見つめている。

「また何かしたら許さないから」

こんなに怒りを感じるのは、生まれて初めてだった。

「ぷう太に何かあったら」

「絶対許さない」

自分がここまで冷たい言い方ができるなんて知らなかった。



車に乗るといつも大喜びではしゃぐぷう太が、うずくまって震えてる。

「ごめんね、ぷう太ごめんね」

ずっと不安だったのに置いていったりしてごめんね。
涙が止まらない。

でも、こうなったのは友樹のせいじゃない。
そうじゃないと分かっていた。

私のせい。
私が浮かれてたから。

王子様に出逢ったみたいな気持ちになってた。
嬉しくて、大好きで、幸せで。
もしかしたら、三神さんと一緒になんて思ったりして。

いい大人のくせに。
私のせいなのに。

どうしてぷう太が怪我するの。

もう会わないから 
ちゃんとするから
だから

神様でも悪魔でも何でもいいから
罰なら私に。
お願い。

お願いします。

心の底から祈った。



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