アラサーだって夢をみる【12/23番外編追加】
◆Focus on Mikami〜夢のおわり◆
『大好きでした』……か。

これが最後だとわかったのに何も言えなかった。
 
   沙理は俺の手を取らなかった。
   それだけは理解した。
   
   俺を受け入れてくれたのに
   愛してると応えてくれたのに
   
   俺よりそいつを選ぶのか。
   
   そいつに抱かれるのか。 
   
   俺を一人にして。
   
   あの時壊してしまえばよかった
   あのまま閉じ込めてしまえばよかった
   
   
   そうしていれば。
   

手に持っていたものを握り締めていることに気がついた。

これ、なんだっけ
ああ、台本か
今日の収録終わってたっけ

――もういいや

何も考えたくない。

「三神?」

呼ばれてる。
誰が呼んでるんだろ

「おいってば」

ああ、めんどくさい
ほっといてくれよ

「玲二!」

肩を掴まれて目を開けると世良が覗き込んでいる。

「真っ青だぞ。収録終わってんだろ? もう帰れよ。お前んちまで運転してやるから」

腕を掴まれて駐車場へ連れて行かれた。
俺の車。
沙理が大好きだと言って嬉しそうに乗っていた。
あの時、空港でここに閉じ込めたっけ。

「なんか買って帰るか?」

帰る?
俺の部屋に?
沙理と一緒に居た部屋に?

これをかけてくれたのに
あんなに求めてくれたのに

金属の冷たい感触を感じて身体が震える。
吐き気がする。

「大丈夫か?」

「帰りたくない」

「は?」

「お前んとこ、行きたい」

「あ? ああいいけど?」

沙理の気配が残っている場所は嫌だ。




世良の部屋は殺風景で生活感の欠片も無い。
今の俺にはこれがいい。 
ソファーに身を投げ出して天井を見ていると世良が声をかけてくる。

「まだ気分悪いのか?」

「最悪」

「上着脱いで服、弛めろよ」

「めんどくさい」

「はぁ?」

「脱がせて」

「しょーがねーなぁ」

世良は慣れた手つきで上着を脱がせて、ネクタイを解いて、シャツのボタンを外して、ベルトを弛める。
ふと身体に重みを感じた。

「お前、俺にそんな隙、見せていいの?」 

頬に長い指が触れて、顔が近づいてくる。

「襲うよ?」

相変わらず綺麗な顔してるよな  
沙理が凄いかっこいいって言ってたな
いつも俺めちゃ巧いんだぜって豪語してるし
こいつと寝たら忘れられるかな

「いいよ」

「は?」

「襲えば?」

世良は、はあ、と大きなため息をついた。


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