アラサーだって夢をみる【12/23番外編追加】
◆Focus on Mikami〜夢のあと◆
「ペットだと口も軽くなるのかな」

世良が笑う。
紹介してもらった探偵は早間(そうま)といって、とても優秀だった。

夏の終わりには最初の報告が届いた。
沙理からぷう太達の画像をもらっていたのがよかったようだ。
最初に調べた救急病院では、沙理が泣きながら連れてきたのでよく覚えていたらしい。
かかりつけの病院やペットショップにドッグカフェ、散歩仲間やマンションの犬友達などからも少しずつ情報収集した。
ペット可のマンションなので吠え声や物音は日常茶飯事だが、夏の初め頃に珍しく凄い鳴き声がしていたという話も聞けた。

数回目の報告に添えられた沙理とぷう太達の写真。
それに友樹という細身で長身の若い男。
こんな奴に。

写真の沙理は別人のようだった。
無表情で痩せた姿をみて愕然とした。
表情が豊かでキラキラしていた瞳に生気がない。

知り合いの宅配業者によると沙理に届く荷物が全くなくなったそうだ。
あんなに好きだったゲームや推し活をやらなくなったのだろうか。
食事はしているんだろうか。
眠れているのだろうか。
体は大丈夫なのだろうか。

不安だけが増していく。
早く迎えに行かなくては。




社長に今抱えてる仕事が終わったら辞めると話したら、文字通り飛び上がって驚かれた。
5月以降、新しい仕事を増やしていないので、もうすぐ終わるものばかりだったから。

「俺、福岡に住むんで。今までみたいに仕事できませんし」

結婚したい人ができたと言うと、もっと驚かれたが、すぐに嬉しそうな顔を見せた。

「そうかそうか。君がなぁ…それはめでたいなあ」

でもそれとこれとは別、交通費出すから続けてくれと言う。

「いや、もう俺、現役引退してあっちで指導の仕事でも探そうと思ってるんで」

すると社長が瞳を輝かせた。

「西にも養成所作りたいと思ってたんだよね。福岡ならちょうどいいから頼むよ。声優の仕事は減らしてもいいけど続けられるし」

「は?」

「三神君なら安心して任せられるから。よろしく」

「いや、ちょ…それは…」

「頼むよ。事務所の…いや、僕のためと思って」

その台詞を聞くと断れない。
この人はまだ青二才で何もわからなかった俺を辛抱強く面倒みてくれた。
世良はホストで自立できていたけど、俺は稼げるようになるまでずっと世話になった。
親代わりと言ってもいいくらい恩がある。

「俺一人じゃ無理ですよ」

社長はぎくりとした顔で俺を見る。

「世良も一緒なら」とにっこり笑うと、辞められるよりはいいと思ったらしく、わかったと頷いた。

「あと年が明けたら何人か連れて行きますよ。いいですか?」

仕方ないなとそれにも渋々頷いてくれた。



部屋を出ると、タイミングよく世良が通りかかった。

「世良」

「どした?」

「今度、福岡行かね?」

「あ? あぁ、いいけど?」

「んじゃ、予定決まったら教えるから、いつでも行けるようにしておいてくれよ」

怪訝な顔で首を傾げている世良に手を振って、俺は次の現場に向かった。  




ファンクラブの幹部に、来年結婚するので縮小して、しばらくしたら解散して欲しいと伝えた。
相手は一般人だと言うと察してくれ、祝ってくれた。
俺も世良もファンの子と個人的に仲良くするようなことは絶対しなかったから、まさかイベントで一目惚れしたなんて夢にも思わないだろう。
それに俺は、もしも自分のファンに気持ちが動くようなことがあったら辞めると決めていた。
けじめというか自分ルールのようなもので、世良からは変に真面目だよなお前と言われたっけ。
だから、5月に沙理と一緒になろうと決心した時から準備を始めていたのだが。
予想していなかった事態になってしまったので、仕事に関しては沙理の件が終わってから考えることにした。




11月には現地に行くことになり、世良に初めてスクールの話をした。
唖然としていたがすぐ頭を切り替えて、事務所が全部やると好きにできないから出資してやると言い出した。

「でも、お前、金貯めてなかった? それなら俺が出すよ」

「別に使い道ないから貯めてただけ。お前のためになるならいいよ。
 お前、沙理ちゃんに使うだろ? 無駄遣いすんな」

その後、社長に相談しに行った世良は機嫌良く戻ってきた。
結局、俺達でやっていいことになったらしい。
どんな話をしたのかと思うと社長が少し気の毒になった。




< 124 / 128 >

この作品をシェア

pagetop