アラサーだって夢をみる【12/23番外編追加】
海上から徐々に高度が下がっていく。
話には聞いていたが、市街地の真ん中に着陸したのには驚いた。
とりあえずラーメン食おうぜと、珍しく世良のテンションが高かった。

「お前、福岡来たことあんの?」

「あぁ。何人かセフレがいるからな」

「…さすが」

「好きな街だよ。便利で飯も美味いし、エロい奴多いし」

「そうかよ……」

「沙理ちゃんに会いに行くのか?」

「いや。行かない」

「なんで?」

「中途半端な状態で会っても沙理が困るだろ。完全に俺の手に取り戻してから迎えに行くよ」

それを聞いた世良は、すげー忙しくなりそうだと肩をすくめた。



友樹という男の調査も済んだ。
普通の二次元好きなオタク。
見た目はイケメンだよな。
グラフィックデザイナーで仕事の依頼は絶えないらしい。
学生時代は優しくてモテたらしいが、癇癪もちで気分屋な面がある、いわゆる切れる子供ってやつだな。
こんな奴が沙理と一緒にいると思うと身震いするほどムカつく。




沙理の母にも挨拶に行った。
俺を見てすぐに「あら、沙理が大好きな声の人?」と言われてびっくりした。
2月に会ってからのことを報告して、結婚したいと思っていると話した。

「あらまあ、そうなの。あの子がねえ…
 歳と中身が全然合わないでしょう?
 亡くなった父親にそっくりでねえ。
 変なところが似ちゃったみたいなの
 沙理が物心つく前にいなくなったんだけどねえ」

のんびりと話すテンポが独特で耳に心地良い。

「あの子の人生だから私は口を出さないけど、今の感じはよくないと思っていたのよねえ」

父親似と言っているが、ふんわりとした雰囲気はよく似ている。

「向こうのご両親も私と似たような人達だから、大丈夫よ」

そう言われて、思わずそうなんですかと声に出てしまった。
本人はどうにかなるとしても、その親が出てきたら面倒になると思っていたから。
そうなのよ、と頷いた後、姿勢を正して俺に向き直る。

「あの子のこと、よろしくお願いしますね」

深々と頭を下げられて、恐縮してしまった。
でも、すぐに「こんなに素敵な息子ができるなんて、夢にも思ってなかったわあ」と表情を崩す。
写真撮ってもいい?とスマホを構える姿に思わず頬がゆるんだ。
沙理とそっくりだ。

一緒に撮りましょうと横に並ぶと、嬉しそうにはしゃいでいて、その様子がまた重なる。
(ああ、沙理に会いたいな)
その気持ちが一層強くなった。


やることだらけで本当に忙しかったが、少しでも時間が空いた時は沙理の住むマンションを見に行った。
部屋の灯りを見ると会いたくてたまらなくなる。
その衝動を抑えるのが大変だった。


あと少し。
もう少しで会えると自分に言い聞かせた。


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