アラサーだって夢をみる
「だから荷物全部もっておいでよ」
それは要するに三神さんと一緒の部屋に泊まるってこと?
いや、ちょっとそれは。
夢とはいえあんまりじゃ。
呆気に取られて返事が出来ない私を無視して、三神さんがキャリーケースを取り上げた。
「荷物これだけ?」
「あ、いえ」
洗面台に置いたままの洗顔セットを取りに行き、横の大きなバスタブをみてため息が出る。
(お風呂入りたかったなぁ)
セットしたままの髪はスプレーやワックスでベタベタして気持ち悪いのに。
でも、何だか逆らえない雰囲気だから仕方ない。
(あの声に弱いんだよね)
あまりに突然の出来事があり過ぎて、考える能力が落ちている。
私はあんまり流されるタイプじゃないと思っていたんだけど。
今はどうしようもなさそうだった。
最後にデスクで充電していたタブレット端末を持つと、私のキャリーケースを転がして三神さんが部屋を出る。
その後ろに続いて歩きながらこの先は天国なんじゃないかと思った。
だって、足元がふわふわで本当に雲の上を歩くようだったから。
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