アラサーだって夢をみる【12/23番外編追加】


――これは夢ね。

今、夢をみているのだとはっきりわかる。

ステージの上で三神さんが何か話してる。
私は誰かの腕の中でそれを見ていて、そこが心地よくて幸せで。


――あったかい。


紙をめくる音が近くで聞こえる。
あまりにもリアルな音だったので、ふと目を開けた。

寝ていたというのはわかった。
それも広いふわふわのベッドで。
あったかいのは誰かの腕の中で眠っていたから。

「起きた?」

頭の上から降ってくる声は、夢の中と一緒だった。

何か言おうしたけど、掠れて声が出ない。
おまけに身体が動かない。
指一本動かせないって本当にあるんだなと思った。 

口移しで飲ませてくれた冷たい水はとても甘くて、私を癒してくれる。

今、何時ぐらいなんだろ。

大きな窓から陽射しの気配はなかった。
真っ暗じゃないから、夜じゃないみたいだけど。

三神さんはサイドライトの明かりで厚い冊子をめくっていた。 

「台本だよ」

私の視線に気がついた三神さんは冊子を閉じながら言った。

「今日、サボっちゃったからね」

そうだよね。
スケジュール詰まってるはずなのに。
そんな一言で済むような問題じゃないと思うんだけど。 
昨日の夜からずっと一緒にいるなんてやっぱり信じられない。

「どんな役か気になる?」

頷くと三神さんはにっこり笑う。

「沙理が夢中になるようなドSなキャラだよ」

ああ、三神さんだ。

好き。

大好き。

好き過ぎて泣きそう。

恥かしいところを見られ過ぎて、心の壁が壊れてしまったのかもしれない。


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