アラサーだって夢をみる

お土産を買って、検査場を抜けて、搭乗口の近くまで来て、やっと携帯を手にした。

もう一度深呼吸して、友樹に電話を掛ける。
友樹にしては珍しく2コールで出た。

『ごめんね、大変だった?』

『いや、みんな大人しかったよ。お前こそ大丈夫?』

『うん』

ああ、友樹の声だ。
懐かしい。
物凄く遠くに来てしまったようで、急に家に帰りたくなった。
何時に到着だからと伝えて電話を切る。

早く帰りたい。
何か思い出したらきっと泣き出してしまう。

でも、優先搭乗で座席に案内されると心が揺れた。
ソファーみたいなシートにゆったり座るとさっきまで居た部屋を思い出しそうになって、慌てて機内誌を広げた。


離陸して東京の街が小さくなっていくのを眺める。

(あれ、私、何しに来てたんだっけ)

本当にそのくらい何も考えられなくなっていた。 
現実感が全然ない。
きっとそのうち目が覚めて、ああ、やっぱり夢だったと思うに違いない。

飛行機とは思えない居心地の良さにうとうとしながら、私はこの夢がずっと続けばいいのにと思った。


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