アラサーだって夢をみる【12/23番外編追加】
三神さんに手招きされて横に座った私に世良さんが声をかけてくれる。

「どうも、世良です」

うわあああ! すっごくいい声。
結構高めなんだな。
三神さんみたい。
作品の声と全然違うんだな。

私は物凄く舞い上がっていた。
2人で一緒に1曲でいいから歌ってくれたらどんなに素敵だろうと思っていると。

「さて、何が聴きたい?」

三神さんが選曲の画面を指差してそう言った。

多分今の私をイラストにしたら、背景に星とかハートとかキラキラが一面散らばって、さらに文字で「ぱぁあああぁあっっ」て書いてあるはず。

なんか三神さんがくすくす笑ってるから 見えたのかもしれないけど。

何から歌ってもらおうかと曲を探していると急にいい香りがして、頬に何かの感触を感じ、びっくりして顔を上げた。

世良さんが私の頬を触ってる。

「すげー」

「肌つるっつるじゃん。どうやって手入れしてんの?」

自分こそ陶器みたいな肌なのに。
ドールみたいに整った顔があまりにも間近なのと、見た目通りのもの凄く軽い口調に固まっていると 

「お前、勝手に触るなよ」

三神さんに抱き寄せられて、腕の中にすっぽりおさまった。   
  
「ごめんごめん。薄化粧の女って高校以来見てないから珍しくて」

ごめんね、と手を振った世良さんに三神さんが抗議する。

「沙理をお前の周りにいる女と一緒にすんな」

三神さん、口調も雰囲気も全然違う。
ほんとに仲いいんだな、この二人。  

「あれ?」

「俺、なんかこの光景、見たことあるような気がする」

世良さんが私を抱いたままの三神さんを指差した。

「俺の10周年イベントの翌日、ホテルのエレベーター前で見たじゃん」

ああ、と頷いた世良さんが続ける。

「いきなり人が泊まってる部屋貸せって無茶言って俺を追い出した、あの時か」

(え…? あの時…?) 
  
あのホテルのことかと思って三神さんを見ようとした時、世良さんが声をあげた。
  
「道理で見たことある……って、ええええええええ!?」
  
「お前、同じ子とまた会ってんの!?」
  
三神さんは露骨に嫌そうな声で返す。 
  
「それ、すっげー人聞きが悪くね?」
  
「だって、お前、この業界入ってから同じ女と寝たことないじゃん。
 俺、今までの人生で一番びっくりしたかも」

「お前……」
  
深いため息をついた三神さんが続ける。
  
「俺が本気だって事、やっと信じてくれるようになったのに台無しにする気?
 この3ヶ月、俺がどれだけ努力したと思ってんの」
  
「努力って……お前が……?」
  
信じられないものをみるような目をした世良さんがふんわりと髪をかきあげる。

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