アラサーだって夢をみる

あなたのもの

夜になっても東京の街は明るく、人も大勢歩いている。
はぐれないようにとしっかり手を握ってくれた三神さんに連れられ、人の波に紛れる。
すれ違う人達もあちこちで集まっている人達も、誰も三神さんと私を気にもしていない。
他愛ないことを話しながら街を歩いて、車に乗って家へ向かう。
その間もずっと、私は夢の中にいるようだった。


三神さんのマンションに着くと室内は薄暗い照明で、昼間と違う雰囲気にのまれそうになる。

沙理、と肩に触れられ、思わずびくっとすると、三神さんがくすくす笑う。

「風呂入っておいで」

バスルームの横に私のキャリーケースを置いて、バスタオルとバスローブを渡された。
  
これ、着るのかと思っていると

「どうせすぐ脱がされるんだから」
 
耳元で囁かれた。

「これだけでいいだろ?」

体温が一気に上がって耳まで真っ赤になってる気がしたけど、三神さんはニコニコしていて。
髪はこっちで乾かしてね、とリビングの隅を示した。

(うわ、広い)

ホテルみたいなバスタブに入って天井を見上げる。

羽田空港で再会してまだ半日も経ってないんだなあ。
やっぱり、全然現実感がない。
ずっと。
あれからずっと夢の中にいるみたい。

目を閉じると三神さんが歌ってる姿が浮かぶ。
優しくて穏やかに微笑んで抱き寄せてくれる。


でも。
私は目を開けてお湯から出た。

本当の三神さんは。

あの日の。
あれが三神さんの本性。
 
強引で力ずくにでも自分の方を向かせる。
感情をむき出しにしてぶつけてくる。
普段は理性に包んでそれを隠してる。

再会してから凄く抑えてるのがわかる。
だから、きっと、今夜は。

それがわかってて私は来たのだから。
私は本当の三神さんにどうしようもなく惹かれているのだから。

(あ、そうだ)

渡さなきゃ、とプレゼントのことを思い出した。
すぐ渡すつもりだったのに、会えた嬉しさですっかり忘れてしまっていたのだ。
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