アラサーだって夢をみる
バスローブが恥ずかしくてなんとか露出を抑えながらリビングに戻る。
三神さんは相変わらずニコニコしていて、俺も入ってくるねとバスルームに向かった。
 
大きな鏡の前に座るとバスローブ姿の自分が映る。
私ってこんな顔だったっけ。
ドライヤーの音を聞きながらそんなことを考える。

そして驚いていた。
ぷう太たちのことを思い出していなかったことに。

髪が乾いた頃、三神さんもバスローブ姿で戻ってきた。

「俺も乾かして」

私と交代して座り、鏡越しに見上げてドライヤーを差し出す。
濡れた黒髪は手触りがよくて、熱風でさらさらになっていく。
鏡に映る三神さんはどこも見てないような、心をどこかに飛ばしているような表情で。

(髪が乾いたら……)

自分の鼓動が聞こえそうで緊張が高まってくる。 
乾きました、とドライヤーを止めると、三神さんがテーブルの端に目をとめた。

「あ、あのそれ」

渡し忘れないように置いておいた箱をプレゼントなんですと説明する。 
  
「俺に?」

三神さんは驚いたように私を見つめる。

お誕生日といつものお礼にと思って、と続ける。
箱を手に、「開けていい?」と聞かれて頷いた。

どうしよう。めっちゃドキドキする。 

箱を開けてじっと見つめていた三神さんは、俯いたままそれを取り出した。
  
「つけてくれる?」

渡されたネックレスをかけてうなじで留める。
間接照明を反射して小さなプレートが光る。
チェーンの長さもいい感じで、良かったと思っていたら。
  
立ち上がるなり、抱きしめられた。

「どうして」

「どうして沙理はこんなに俺が嬉しいって思う事をしてくれるの?」

あまりにも強く抱きしめられて返事ができない。

それは私の台詞なのに。
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