アラサーだって夢をみる
三神さん…?
名を呼ぶ声とあたたかい感触に目を開けた。
沙理、と呼ばれ、吐息がかかる。
あぁ、私、気を失ってたんだと意識がはっきりして気がついた。
手、縛られてる。
三神さん、と言おうとした唇を塞がれる。
信じられないくらい気持ちよくて、
身体の中、全部引きずられるみたいで。
あまりにも続く行為に、身体が根をあげる。
自由を奪われていることが私を現実に引きずり戻す。
怖い……
このまま続けられたらどうなっちゃうの
覚悟してきたはずなのに、不安が湧いてしまった時。
三神さんが動きを止めた。
「沙理」
頬を撫でられて、自分が震えていることを知った。
「ごめん」
指先でぬぐわれて涙が溢れていることもわかった。
三神さんは止められなくてごめんと私を抱きしめる。
「俺、おかしくなってる」
三神さんの声が震えてる。
「本当は、俺
怖かったんだよ
もう来ないんじゃないかと
もう二度と会えないんじゃないかと
ずっと不安で
でも、会いたくて
苦しくて
沙理が来なかったら、俺はどうしようもないから。
だから、空港で見つけた時、夢じゃないかと思ったんだよ。
こんな俺のとこに
何されるかわからないのに
本当に、また俺の元に戻ってくるなんて」
声から伝わる気持ちが心に刺さって痛い。
違うの、大丈夫なの。
こうなるのがわかってて来たのと伝えたいのに声がでない。
「心も身体も全部欲しいんだよ
全部、俺のものになって
俺だけのものでいて
俺を受け入れて」
泣きそうな顔で愛してると繰り返されて
私は三神さん、と呼んだ。
おかしくなってるのは私の方なのに。
何をされてもいいと思って来たんだから。
逃げたりしないからと拘束を解いてもらって、
もっとしてと強請った。
ずっと言えなかった言葉もやっと言える。
「三神さん」
「愛してる」
愛してると何度も告げる。
三神さんは少しの間、私を見つめて。
優しくキスをした後に。
「俺の全てをあげるから、壊しても…いい?」
消えそうな声で、でも真剣な眼差しでそう言った。
頷いたのに。
本当によかったのに。
それで、この人が満たされるのなら。
私は何も
何もあげられないから。
それに。
そうすればきっと。
私は楽になれる。
本当はわかってる。
あの時
抱かれた時から
好きだと認めてしまった時から
私はとっくに壊れてしまっていた。
それに気づかないふりをしていただけ。
でないと帰れなかったから。
認めてしまったら自分を保ってられないから。
だって知らなかった。
こんなにも愛せる人がいるなんて知らなかった
こんなにも愛してくれる人がいるなんて知らなかった
出逢えた奇跡が嬉しくて
そして苦しくて
何もかも忘れたくて
足掻く私を救ってくれるのはこの時だけ。
いくらでも縋って
甘えて泣いて
愛を告げても赦される気がした。
心も身体も一つになって
一人じゃないと感じられる
ずっとつながって
満たされる。
いつまでもいつまでも求め合って
愛し合って快楽を貪り合って
夢幻の世界にふたりだけで。
このままずっと
私が狂ってしまうまで抱いていて
それだけを願って。
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