アラサーだって夢をみる【12/23番外編追加】
「じゃ、いこっか」

2日間過ごした部屋を後にする時がきた。
昨夜の話はそれっきりで、三神さんが再び口にすることはなかったから、私も気にしないようにしていた。
もちろん、忘れることなんてできるはずもなくて、三神さんの言葉と声が深く耳に残っていたけど。



靴を履いて、ドアを開ける前に触れるだけのキスをして、少しの間抱き合っていたら。

ごめんと聞こえたと同時にまたキスをされた。
いきなり舌が入ってくる。
全く身構えていなかったのでされるがままで膝が震える。
身体の奥に閉じ込めた快楽が引きずり出される。

 どうして
 こんなキスするの
 帰らなきゃいけないのに

涙が零れて頬を伝う感触にさえ身震いする。
やっと離してくれた時には、立っていられなくて三神さんの腕に支えられていた。

でも。

私を抱いている腕も胸も、呼吸も震えていて。
心臓がすぐそこにあるんじゃないかと思うくらいに響く速い鼓動と対照的な。

消えてしまいそうな小さな声がした。

「帰したくない」

痛い。
胸の奥が締め付けられる。 
苦しい。

たった2日だったけど、今まで生きてきた中で一番満たされた時間だった。
こんなにも一つになれたことなんてなかった。
このまま離れてしまったら、心も体も引き裂かれてしまいそうで。

「私も」

ぷう太の顔が浮かんだのに。
帰るって約束したのに。


「帰りたくないです」


三神さんと一緒に居たい。

そう思ってしまった。

しがみついた私をぎゅっと抱きしめてくれたあと、三神さんは深く息を吐いた。

「ごめん」

普段の声に戻って

「みんな待ってるね」

私の頭を撫でながらごめんね、と繰り返す三神さんに首を振って、もう一度だけ背中に手を回した。
 
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