アラサーだって夢をみる【12/23番外編追加】

離陸して東京の街が遠ざっていくのを眺めながら、別れ際の会話を思い出していた。

「電話かけていいからね」

待ってるからと言ったあと、三神さんの声に真剣さが混ざった。

「あとさ」

「何かあったら俺に話してね」

「はい?」

何かってなんだろうと思っていると

「これから先、辛くなったら、絶対言えよ?」

約束だよ、と小指を絡めて念押しされた。

そんなことがあるだろうか。

三神さんは私といると幸せだと言ってくれた。
私と一緒に生きていきたいと。
その言葉がずっと耳に残っている。

「幸せかぁ…」

あまり考えた事がなかった。
衣食住に困ることもなく、大好きな犬と暮らせて。
こんな私でも結婚してくれた人がいて。
好きなアニメや趣味に囲まれて、あろうことか憧れだった人と愛し合えて。
どうして幸せじゃないというのだろう。

でも――

三神さんと一緒にいられたら。

あの人とずっと一緒に。 
ぷう太達と一緒に暮らせたら。

その情景が鮮明にイメージできてしまって、思わず首を振った。

(そんなの無理)

家に帰れば、いつも通りの生活が待っている。  
私の居場所はそこなのだから。

だから、今だけは。

目を閉じて思い出す。
一緒に過ごした部屋を。
声を、ぬくもりを、私を見つめる瞳を、言葉を。
三神さんが歌ってくれた
大好きな歌を
記憶に焼き付けて――


また会えると信じて。



ー◇ー◇ー◇ー◇ー


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