愛を待つ桜
先客の思惑など露知らず、飛び込んで来たふたりは貪るようにお互いの唇を求め合い、身体をさぐり合っている。

稔はネクタイを解き、ワイシャツのボタンをふたつほど外すと、今度は亮子のエプロンを押し下げた。
そのまま彼女の胸をはだけ、素肌に口づける。


『ああ……ダメ……稔さま』

『どんな危険を冒しても、僕は君を抱きたい。亮子……君だけだ』


稔は、忙しなく亮子のスカートをたくし上げショーツを引き下ろした。


『ねえ、待ってください……本当にここで?』

『もう止められない』


稔は、ベッドメイクもされていないむき出しのマットレスの上に亮子を押し倒した。



数分後、部屋中に亮子の嬌声が響き渡った。

突き上げるリズムに合わせてベッドの軋む音がする。

夏海にとってそれは信じられない出来事だった。
彼女は23歳だが、真面目な性格が災いしてか男性との交際経験ゼロ。とはいえ、恋やセックスに興味がないわけではない。

ふと気付くと、客間で行われている情事に彼女は意識を集中していた。
細かな息遣いや衣擦れの音にすら、息を止め、聞き耳を立てる。聡のように見えない分だけ、想像力が掻き立てられ、顔は真っ赤で呼吸も荒くなっていた。

夏海は聡の様子が気になり、思わず顔を上げてしまう。

すると、同時に聡も彼女を見下ろしたのだ。

お互いが――心を見透かされたようで、恥ずかしさの中に奇妙な興奮と緊張がざわめきたった。 

そのまま、そうっと聡の顔が夏海に近づいた。
それはあまりに自然な動作で、当たり前のようにふたりの唇は重なった。そして、背中に電流が突き抜けたような衝撃を受ける。

互いの唇は、次第に相手を求めて、強く……更に強く押し付け合った。

無意識のうちに、ふたりの身体もぴったりと寄り添っている。
ドアのすぐ近くに立っていた聡は、左手で夏海の背中を、右手で腰を掴み、自分の身体に引き寄せていた。
夏海も彼の首に手を廻し、抱きつくようにもたれ掛かった。


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