愛を待つ桜
あかねは、幼い悠の姿を見るなり抱き締めた。

そして夏海の手を取ると、


「苦労したでしょう。これからは遠慮なく甘えてちょうだいね。なんでも、頼ってくれたらいいのよ」


そう言ってくれたのだった。


義母の涙を見たとき、夏海は初めて自らの過ちに気付く。

聡に対する憎しみや悲しみで、あかねたちにも何も知らせなかった。
知らせていれば、悠に寄る辺のない寂しさや孤独を経験させずに済んだのだ。

我が子の存在すら知らなかった、と聡が怒っても、申し訳ないとは思わない。むしろ、自業自得だ。

だが、家族の気持ちなど考えもせず、どうせ無駄だと何もかも独りで背負い込んでしまった。

そのとき、夏海の心に実家の両親のことが思い浮かんだ。
家を出てから1度も連絡を取っていない。

ひょっとしたら探しているのではないか?
両親は元気でやっているのだろうか? 

そんな不安に駆られる夏海だった。



そしてあかねは聡の結婚に至る事情や一条家の近況を教えてくれた。

聡は何も話してくれないので、夏海には驚く事ばかりだ。


「夏海さんが会社を辞めてすぐかしら、次男の稔さんが離婚してしまったの」


まず、夏海と聡が“クローゼットの情事”に陥った原因とも言える、次男の稔だが……。


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