愛を待つ桜

(3)哀しい告白

「じゃあ、結婚式もなし? 写真も撮らないの?」

聡の両親の奇襲から数日後、夏海は双葉とふたりで事務所の階下に位置するウェストウォーク内にランチに来ていた。

引越しの荷物も片付き、悠も同じヒルズ内の保育施設に通い始めたところだ。


「ん、聡さんは3度目だし。子供もいるし……ね」

「でも、一条のご両親は勧めてくれるんでしょう。身内だけで式と写真撮影だけでもやっとけば? 将来、子供が見たがるものよ」


夏海も女性である以上、ウェディングドレスに憧れないわけではない。

だが、「もう入籍も済ませて一緒に住んでるんだぞ。何を今更」聡はそう言って両親に断わってしまった。

どうせ悠のための結婚なのだ。
結婚に不可欠な愛も信頼もないのに、神様の前で一体何を誓うのだろう――納得の上とはいえ、考えるたびに夏海の胸はチクチク痛む。

そんな夏海の表情に、双葉はストレートに切り出した。


「ねえ、何か悩みでもある?」

「え?」

「結婚1ヶ月でしょ。今幸せでなきゃいつ幸せになるの? って時期じゃない」

「そう……ね」


そう言ったきり、夏海は俯き、食後のコーヒーカップを両手で廻す。


「子供のために結婚してくれ、とでも言われた?」


図星だとも言えず、夏海は曖昧に答えた。


「まあ……悠のために、努力して欲しいって。仲の良い夫婦になりたい、って言ってたかな」

「でも、アッチのほうは上手く行ってるんでしょ?」


双葉はなるべく明るく、夏海が笑って答えられるように話を振ってくれる。


「まあ、それは、ね。全然『ダメ』じゃないと思う。わざとじゃなかったのかな?」

「う~ん、どうかな? あのころは結構マジっぽかったわよ。元々、神経質な性質だから。そうは見えないけどね」

「そうよね。心臓に毛が生えてる感じなのにね」


ふたりで顔を見合わせて笑った。


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