愛を待つ桜
その夜、双葉は怒り心頭で夫に詰め寄っていた。


「どういうこと!」

「いや、どういうって……」

「私が聞いたのと、だいぶ事情が違うみたいなんだけど! あんた知ってたんでしょ? 修、正直に言いなさい!」


夏海の言う通りなら聡の態度は許しがたい。
男と女の関係に口を出すつもりはないが、これではあまりに夏海の立場が弱く不公平過ぎる。


妻の激昂ぶりに押されるように、如月は聡の言い分を双葉に説明した。


「と、とにかく……3年前のことは、奴自身も何かおかしいって思い始めてるからさ。ちょっと待ってやってよ。今、追い詰めたら、また閉じこもる可能性もあるから」

「で、あんたはどうなの? なっちゃんが匡くんや他の男とも関係してたって思う? 少なくとも、引きこもり同然の一条くんより女性経験は豊富でしょ?」

「俺は女房ひと筋だよ。ま、それはともかく……。誰の目にも彼女は男をコロコロ替えて遊ぶような女には見えないね。悠くんはどう見たって聡の種だし……」

「その友人とやらに確認とってみてよ」

「俺が?」

「イヤなの?」

「いえ……時間、作ります」


どうあがいても、妻に頭が上がるはずがない。

それに、如月も気掛かりではあった。

信じたいけど信じられない。振り切ったように言ってはいるが、聡は今も過去の出来事にこだわっている。

そんなやり場のない思いは、いつ夏海に向かうか知れない。


「結婚したばっかりの新婚さんじゃない! なのに、捨てられるのが怖いって、子供を奪われたら生きていけないって泣くのよ。一条くんのことが好きだって、ずっと愛してきた、妻になれて幸せだってポロポロ涙をこぼすのよ! あのままじゃ壊れちゃうわ。何とかしてあげて!」


聡が再び傷つくのを恐れて攻撃すれば、今度は間違いなく夏海にとどめを刺すだろう。

そしてそれは、聡自身の、息の根を絶つことになるとも知らずに……。


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