愛を待つ桜

(1)過去から来た女

夏海たちがヒルズのマンションで暮らし始めて、1ヶ月あまりが経過した。

夫婦の距離が急速に縮まることはないが、少しずつわだかまりは消えつつある。

3人が家族らしくなり始めたころ、夏海は予想外の人物と再会した。


その日、聡は早朝から札幌に出張しており、帰京は翌日の予定。
如月も大阪で、戻るのは夜だった。

他の弁護士も仕事で出払っており、事務所内には夏海や双葉、そして派遣社員たちだけという女ばかりだ。


夏海は秘書業務がひと段落つき、本職に取り掛かろうとしたとき、騒ぎが起こった。
突然、ドアの向うから女性の怒鳴り声が聞こえる。
夏海はビックリして手を止めた。



その少し前のこと……事務所にひとりの女性が訪れる。

年齢は30歳前後、見た目の印象はセレブな若奥様といった感じ。
しかし、事務所内の人間を値踏みするような視線に神経質な高慢さが窺え、女性からは嫌われそうな印象だった。

来客の受付には、派遣の中から手の空いたものが立つことになっている。
アポイントメントなしの来客はほとんどいないので、受付嬢は必要なかった。


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