愛を待つ桜
双葉は振り返った女の顔を見るなり、


「……あら、業突張りの女狐じゃない。今さら何のご用かしら?」


それは、あまりに挑戦的、いや、好戦的な声だった。
派遣一同に緊張が走る。


「そちらこそ、まだ如月先生と別れずに、ここにいらしたのね。ああ、年上ですもの、捨てられまいと必死ですわね」


負けずに女は言い返した。

しかし、双葉も売られた喧嘩は買う主義だ。


「そうそう、捨てられた女がいつまでも周りをウロウロしてるなんて……惨めよねぇ」

「私は捨てられたわけじゃありませんわ! 一条が、自分では私を幸せにできないと、身を引いただけよ!」

「ある意味幸せな人ね。それとも、おめでたいだけ?」

「私は一条に会いに来たんですのよ。あなたみたいな悪女の餌食になりそうだと聞いて、誰かが注意して差し上げなくては」

「ああ、それはいい考えね。あなたに会えば、彼は今の幸福を再認識すると思うわ。女郎蜘蛛から、命からがらで逃げ出したことを思い出すでしょうよ」

「何ですって!」


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