愛を待つ桜
夏海がドアを開けたのはこのときだ。
双葉は来客の女性と取っ組み合いでも始めそうな雰囲気だった。


「双葉さん! どうしました?」

「ああ、紹介するわ。一条先生の奥様、夏海さんよ」

「わざわざ紹介いただかなくても存じてますわ! 私のこと、覚えてらっしゃるかしら? 3年前の春に、成城の一条邸でご挨拶いたしましたわね」


女性の言葉に夏海は目を見開いた。

聡と出逢った直後、『私は聡さんの婚約者で笹原智香と言いますの』そう名乗った女性だ。

あのときは、すぐに聡が否定してくれたが、今となってはあの言葉の真意は判らない。
結果的に聡はこの女性と結婚式を挙げたのだから。


智香は鼻息を荒くすると、夏海を見下すように言う。


「織田夏海さんでしたわね。私の記憶に間違いが無ければ、あなたは、匡さんの婚約者になられる方、と聞いたはずですけど……」


夏海は我に返り、姿勢を正した。


「ご無沙汰しております。あの日のことは覚えております。匡さんとのお話があったのは事実ですが、後日お断り申し上げました」

「ええ、私もそう聞いておりましたのよ。会社はお辞めになったんですって。そのあなたが、どうしてここにいらっしゃるのかしら? ねえ、織田さん」


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