愛を待つ桜
智香は、一条姓を名乗った夏海に苛立ちを隠そうともせず、


「私は聡さんと話があるの。あなたに言ってもしようがないでしょう? お判りかしら?」

「そうですか。では、後日アポイントメントをお取りの上でお越しください。仕事がありますので、失礼致します」


一礼して夏海は部屋に戻ろうとした。
だがその背中に、智香は容赦ない言葉を浴びせ掛ける。


「子供がいるんですって? 聡さんの子供だなんて、とんだ嘘つき女ね!」


自分を無視する夏海に、智香は更に言い放った。


「可哀想な聡さん。新婚の匡さんのために、ご自分が泥を被ったのだわ。そうでなければ、誰があなたみたいな女と」

「妙なことはおっしゃらないでください! ここがどこだかお判りですか?」


智香を無視するのを止め、夏海は言い返した。

聡といい、智香といい、なぜこうも匡の名前を引っ張り出すのだろう。
夏海にはさっぱり判らない。

だが、派遣たちの聞いている前で言われた以上、〝聡の妻〟として反論する責任があった。


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