愛を待つ桜
一方で、夏海が反応したことに智香は目を輝かせた。
まるで、獲物を見つけた肉食獣の顔である。

「それが何だと言うの!? 偉そうに一条の名前を名乗るなんて。お金目当てで子供まで産んで、いやらしい女ね。その上、弟思いの聡さんを利用して……少しは恥を知ったらどうかしら?」


渡豪直前、聡に対して接近禁止命令が出ていたと聞く。
微妙な立場は智香のほうだろう。

しかし、そんなことをおくびにも出さない彼女の攻撃に、夏海はたじろぎ閉口した。


その様子を見ていた双葉のほうが、ついに堪忍袋の緒が切れてたようだ。


「恥を知らないのはどっちなの? 何度断わられてもしつこく付き纏って、恋人とケンカした男の心の隙に付け込んだ、みっともない女は誰? 入籍前に間違いに気付いた男に、執拗にセックスを迫った挙げ句、1億円で追い払われたバカな女はどこの誰か教えて頂戴!」

「この女が現れる前に、私と聡さんの結婚は決まっていたのよ! この女に誘惑されて、愚かな間違いを犯してしまっただけだわ!」

「あら? 間違いを犯せる体なのは認めるわけね?」


チッと智香は舌打ちする。
あくまで、匡の子供のはずだと押し通そうとしたようだが、双葉の挑発に、ついつい本音が出てしまったらしい。


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