愛を待つ桜
「DNA鑑定で明らかにされたのならそうなんでしょうよ! きっと私を抱いてくださらなかったのは、この女と関わった罪の意識からだわ!」

「自分の魅力のなさは棚上げ? 結構な事ね」

「私は、あなたたちのような下品な女とは違うのよ!」

「そっくりそのまま、同じ言葉をお返しするわ!」

「なんですって!」


放っておけば延々やりそうなふたりだ。
夏海も他の派遣社員同様、唖然としていたが……ハッと我に返り、ふたりの間に割って入った。


「待って……ちょっと待ってください。双葉さんも……笹原さん、でよろしいんでしょうか?」


彼女の左手薬指に納まった、ダイヤモンドリングとプラチナのマリッジリングに目を留め、夏海は呼び名を躊躇った。

しかし、


「ええ……あなたに奪われてしまったのですもの。でも、この指輪を嵌めてくださったとき、私たちは永遠の愛を誓いましたわ!」


あまりに常識外れな返答に、その場にいた全員が言葉を失う。 


「あなたは、私の婚約者を寝取って妊娠したのよ! 彼に無断で子供を産んで……私たちの結婚生活を壊したのは、間違いなくあなただわ! 私はあなたを赦さないわ。このままにはしないから、覚えてらっしゃい!」


智香は言い捨てるとサッと踵を返し、力任せにドアを開け放った。
ひと言もなく見送る夏海らを尻目に、ようやく嵐は退場してくれたのだった。


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