愛を待つ桜
「彼女にも言われたわ。匡さんの子供なんだろうって。弟思いのあなたに付け込んだ……」

「夏海、そのことは」

「どうして? お見合いの席には出たし、お話をいただいたのも事実よ。だけど、どうしてあなたも彼女も、あんなことを言うの? ねえ、どうしてなの?」


縋りつくような夏海の瞳に、聡は途方に暮れた眼差しを向けた。


「……自分の胸に、聞いてみるといい……」

「聞いて判らないから言葉にしただけ。答えてくれる気がないならもういいわ」


ふたりの間の気まずい雰囲気を察し、夏海は話を切り上げた。


そんな彼女の背中に、


「匡が言ったんだ。君と深い関係だ、と。縁談が持ち上がる前から、そういう付き合いがあったってね」


思いがけない言葉を掛けられ、夏海は心臓が止まった。


「そ、そんな、バカな! そんなこと……絶対にないわ! だって、私はあなたが……あのときが」

「あのときのことを持ち出すのは止めにしよう。今さら何を立証することもできない。そうだろう?」

「本当に? 本当に疑ってるの? 私が初めてじゃなかったって、芝居だったって。本心からそう思ってるの!?」

「止めようと言ってるんだ! 君が聞きたがったから答えたまでだ。3年前の話はしない約束だろう? もう止めよう。いいね」

「じゃあ本当に……悠の父親は自分かどうか判らないって、そう思ってるのね」


夏海の声ははっきり判るほど震えていた。


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