愛を待つ桜
(大丈夫……大丈夫だ)


3年前、夏海を手放したときの苦痛は地獄だった。
恐怖が聡を急かす。気付くと、夏海の細い腕を、痕が残るほど強く握っていた。


「イヤ……い、痛いっ」


このとき、夏海の小さな悲鳴に、聡は本気の〝拒絶〟を感じ取る。
いつもなら、肌はほんのり桜色に上気し、呼吸が荒くなるころだ。
張りのある胸の谷間も、聡の唇を誘うように上下して……。

夏海の全身が強張ったまま硬直している。

手を離す以外、聡に為す術はなかった。


「ごめんなさい。少し、落ち着きたいから……今日は悠の部屋で寝ます」


夏海は聡のほうをチラッとも見ようとしない。
その夜から、夏海が聡のベッドで眠ることはなくなった。


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